おっきなおさなかを売ってるお店からちょっと先に歩いてくと、おじさんが言ってた通り僕の村とおんなじくらいの大きさのお魚ばっかり売ってるとこに出たんだ。
でもね、売ってるお魚の中には僕が見た事無いお魚もいっぱいあったんだよね。
「わぁ、きれいな緑色のお魚だぁ」
その中でも僕が特に気になったのが、ぴかぴか光ってるきれいな緑色のお魚だったんだ。
「いらっしゃい。おや、珍しい。エメラルドフィッシュを買いに来たのかい?」
「このお魚、エメラルドフィッシュっていうの?」
「ん? 知らないって事は、この魚を買いに来たわけじゃないのか」
僕に話しかけてきてくれたのは、エメラルドフィッシュってお魚を売ってる屋台のお兄さん。
お兄さんはね、最初は僕がエメラルドフィッシュを買いに来たんだろうなぁって思ったそうなんだけど、僕がこのお魚を知らないっていったらすぐに買いに来たんじゃないんだねって言ったんだよね。
でもさ、知らなくたっておいしそうだから買ってこうって思う人もいるかもしれないでしょ?
なのにお兄さんはすぐに、知らないんだったら買いに来たんじゃないんだねって言ったもんだから、僕、なんでかなぁって思ったんだ。
「お兄さん。何で知らないと買いに来たんじゃないって事になるの?」
「ああ、こんな小さな坊やでは字が読めなくて当たり前か。ほら、ここに字が書いてあるだろ? これはな、この魚は魔物だから普通の刃物では調理できませんって書いてあるんだ」
僕お魚ばっかり見てたもんだから気が付かなかったんだけど、エメラルドフィッシュってお魚が置いてある代の舌には、お兄さんの言う通りこれは魔物だよって書いてあったんだ。
でね、お兄さんが言うには、このお魚はとってもおいしいんだけどうろこが硬すぎて普通のナイフじゃ切る事ができないんだって。
「この魚をさばくには、まずはうろこを特別な道具で全部きれいにはがす必要があるんだ。だからその道具を持っていない人には、欲しいと言われても断るようにしてるんだよ。せっかくの魚が調理されずに腐ってしまったら、獲ってきた人に悪いからな」
「そっか。お料理できなかったらお魚がもったいないもんね」
「中にはうろこをはがす道具を買うからなんて言う人もいるんだけど、道具の値段を聞くとほとんどがやはりやめておくって言うんだぞ」
「うろこをはがす道具、そんなに高いの?」
「ああ。なにせミスリルの粉を混ぜ込んだ鋼で作られてるからな」
お兄さんが言うにはね、鋼だけで作った道具だとすぐにボロボロになっちゃうんだって。
だからミスリルを混ぜて作るらしいんだけど、それだとすっごく高くなっちゃうでしょ?
そんなのすっごいお金持ちか、このお魚を出してる料理屋さんくらいしか買えないからミスリルって聞いただけでみんな諦めちゃうんだってさ。
「へぇ。でもそんなお魚、お店に置いてて売れるの?」
「ここは美食の街だからな。領主様が帝国中から一流店を集めてくれているおかげで、うちの店でもかなりの売れ筋商品なんだぞ」
そう言えば前に誰かが、イーノックカウの領主さんはおいしいものが大好きなんだよって言ってたっけ。
そっか、さっきお兄さんが言ってた通り、このお魚を使ったお料理を出すお店がいっぱいあるなら売れるよね。
「それにな、このエメラルドフィッシュに限らず、この街にはとても高いがよく売れる魚はいっぱいあるんだぞ」
「そうなの?」
「ああ。ここからちょっと離れた場所に行くとな、他では見られないくらい大きな魚ばかり売ってる区画があってな」
「あっ、僕、さっきそのお魚屋さんに聞いてここに来たから知ってるよ」
僕のお話を聞いて、そうか、知ってたのかぁって笑うお兄さん。
「このエメラルドフィッシュもあの辺りで売られてるのと同じくらいの高級魚だから、昔はあっちで売ってたんだ」
「そうなの? じゃあ、なんで今はここで売ってるの?」
「それはな、あそこの魚がみんなデカすぎるからなんだ」
あそこに売ってるお魚はみんなおっきいから、それに合わせてお店も全部おっきいんだよね。
でもこのエメラルドフィッシュは、普通のお魚とおんなじくらいの大きさでしょ?
これだけ売ってるとお店がガラガラに見えちゃうんだってさ。
「それにな、店が大きいって事は、それだけ場所代を取られるって事なんだ。だからお客さんに説明してこっちに移ってきたってわけ」
「そっか。買いに来てくれるお客さんが知ってるなら、こっちでお店をやってもいいもんね」
お兄さんが言うにはね、エメラルドフィッシュみたいに高いけどあんまりおっきくないものを売ってるお店がこの辺りには何軒もあるそうなんだよ。
「美味い魚ほど、他の動物に食べられないようにと警戒心が強くて捕まえにくいだろ? そういう魚は、このエメラルドフィッシュのように特殊なものでなくても高いんだ」
「じゃあ、普通っぽいお魚でもすっごく高いのがあるんだね?」
「ああ。それにな、森の中を流れている川にしかすんでいないような魚も高いかな。なにせ獲りに行くだけで命懸けだから」
森の中のお魚っていっても、そんなに奥の方まで行って獲る訳じゃないんだって。
でもね、それでも森の中には危ない動物や魔物がいっぱいいるから、獲りに行ける人はあんまりいないんだよってお兄さんは言うんだ。
「なにせ冒険者は動物は狩っても魚は獲ってくれないからなぁ。森の中の魚は美味いから、うちとしても扱えるものなら扱いたいんだけど」
「行ける人があんまりいないと、お魚もいっぱい獲ってこれないもんね」
「ああ。でも漁師は魚を獲れるけど動物や魔物から自分の身を守る技術なんて持ってないから、知り合いに頼んでも断られるんだよなぁ」
そう言いながら、頭を書いて苦笑いするお魚屋さんのお兄さん。
僕はね、そんなお兄さんのお話を聞きながら、そう言えばロルフさんたちも僕しかベニオウの実を採ってこれないから、肌や髪の毛のお薬がいっぱい作れないって言ってたなぁって思ってたんだ。
動物から魔物に変異したものには角が生えたり大きくなったりといろいろな種類がいるのと同じで、魚もいろいろな変異をする魔物がいます。
前回の養殖で育てられている魚は魔物にこそなってはいませんが魔力を取り込むことで巨大化していました。
それに対して今回出て来たエメラルドフィッシュは、うろこが硬くなるという変異をした魚の魔物です。
ただ、動物の場合は体表が硬くなることによって他の生物から身を守る事ができるようになるかもしれませんが、魚の場合釣り上げられたり網で獲られたりするのであまり意味が無いんですよね。
結果、人間からすると美味しくなるだけという、エメラルドフィッシュからするととても悲しい変異になってしまいました。